【巻頭言】

ルーツとしての酵素工学研究会、「ロストワールド」or「ニューヘブン」

園元謙二

九大院・農

 

巻頭言の執筆依頼を受けた時、現在の私の研究領域紹介と酵素工学との関連などについて書くことを考えていた。この機会に、過去10年間の酵素工学ニュース(第30号から第50号)の巻頭言を時代を遡りながらあらためて読み返している内に、諸先生方の本研究会に対する熱き想いと存続への危惧の念に触れ、いわゆる第三世代の研究者としての私見等を述べてみたくなった。なお、本研究会の歴史・発展については、例えば創刊25年の節目の第50号での千畑一郎博士による「酵素工学研究会に想う」に詳しい。これら巻頭言の中で問題意識としてよく出てくる表現として、①「若手会員の減少、若手への対応」、②「新たな人材の導入」、が挙げられる。先ず①について、私と本研究会の関わりを簡単に紹介しながら述べてみたい。今日、私が研究者としてあるのは、本研究会抜きでは考えられない。本研究会は第一世代の研究者が立案・参画して設立され、第二世代の研究者が発展させたものである(第50号巻頭言参照)。設立時、私は大学院生であり、恩師の福井三郎先生(当時会長、50代)、田中渥夫先生(当時幹事、30代)のもとで本会の講演会などでアルバイト生として運営に携わる機会を与えていただいた。その後、助手となり若手研究者時代もますます本会との絆が深くなった。その間、第一世代、第二世代の先生方の世界に先駆けての情報発信という強い情熱に触れつつ、世界の研究者との出会いと競争、多方面・異分野の研究者による刺激、など数え上げられないくらいの恩恵を受けた。日本で2回開催された国際酵素工学会議でも、院生として、助手として会の運営に携わることもでき、その経験は数々のエピソードと共に何物にも代え難い。そのような環境下で、多くの共同研究に恵まれ、特に異分野の研究者との出会いと議論はその後の私の教育・研究を続ける上での貴重な宝となっている。例えば、実験結果の解釈、展開・方針などに際して出身分野の違いがあり、多面的な見方の重要性を痛感したことを覚えている。このような経験(恩恵)は若い時にきわめて重要であるが、これは単に私が会長職の先生の研究室に所属していたからだけではないように思える。当時働き盛りの本会所属の研究者・技術者は恐らく私を頼りない・心許ない学生・若手と思われていたであろうが、いつも温かい眼差しで接していただき、育てていただいた。では、本研究会は現在の学生や若手研究者にどのようにして応えることができるか?単なる発表の場を提供して後はそれぞれ感じてほしいでよいのか?学生や若手研究者の本会活動への参画により、会の運営などを通して人を知り、己を磨くことを提案したい。また、応用・実用化研究の面を考慮して企業のフレッシュな研究者を多く誘いたい。極言すれば本会の役員、特に幹事(30代中心)・委員(40~50代)、の大胆な若返りを希望するが、運営力も考えて漸次行ってほしい。当然、第三世代の研究者が中心となって次世代の酵素工学研究者を育てる責任もある。

②について、本会は学会横断的要素をその活動の原動力としているので、講演会後の懇親会が重要であることは衆目の一致するところであり、新たな人材を温かく迎えて行かねばならない。最近では、懇親会参加者はほとんどが常連の方であり、会員でない招待講演者と数人の新規参入の方がいるだけである。本会が多様な専門領域の研究者・技術者によって初めてその意義を見出すものであればこの問題は致命的と言える。新たな人材を待つのではなく、積極的に会の運営などに取り込み、本会の本来の魅力に陶酔させる努力を忘れてはならない。

最近、本学や他大学・大学院の講義あるいは技術者の講演会で、バイオテクノロジーについて解説する際、酵素工学の発展の歴史を紹介していると熱い視線を感じることが多い。当然、私もその説明には力が入っているからであろうが、日本が世界をリードしていた様子が彼らにある種の刺激を与えていることは事実であろう。これを契機に、彼ら学生・若手が将来、バイオテクノロジー、酵素工学等で活躍すれば、恩恵を受けた私にとって最大の恩返しになる。

いくつかの学会の若手の会が設立当初の勢いを失い、過去に若手として活躍された中年・熟年の会?と成り果て、上記の①②のような悩みを持っている。実際、本会で会長をはじめ役員有志で泊まり込みで議論したこともあったが、名案は出なかった。「改革なくして成長なし」は政治の世界だけではないように思う。折角与えられた機会なので諸先生等からの叱責を覚悟の上で思うところを述べた。因みに、私の所属は九州大学大学院農学研究院生物機能科学部門応用微生物学講座微生物工学分野である。また、大学院生の所属は九州大学大学院生物資源環境科学府生物機能科学専攻応用微生物学講座微生物工学分野である。いかにも長い!これは全国の大学でも同じ傾向である。いくつかの理由はあるが、大学、学部、学科の改革・新設などに伴う組織の再編を行うに当たり、それぞれ元の組織に基づくキーワードを組み合わせた結果ともとれる。実際、どんな教育・研究を行うのかは、特に最初の文言では見当もつかないファジーの世界である。これが現在の「酵素工学研究会」の実態とも言える。その功罪をここでは論じることは避けたいが、このエントロピー的増大・多様性こそが本会の特色であり発展の原動力と言える時が再び来ることを切望し微力を尽くしたい。私にとってルーツである本研究会が「ロストワールド」ではなく「ニューヘブン」となることを願って!