【巻頭言】

反応機構の検討で酵素工学研究会に貢献できるか?

広原日出男

滋賀県大・工

 

酵素工学研究会と酵素工学の発展に対する諸先生方の熱き議論に触発され、自分はどのような貢献ができるか考えてみた。これがなかなか難しい。学界あるいは産業界で功なり名遂げた大先生や40~50代のバリバリの研究者なら、貢献の方法も自ずと明らかで、そうした方々から心を打つ提言が披瀝されている。しかし、中途半端に学界と産業界の両方を経験しただけで、そう遠くない将来に定年を迎える私などの場合は・・・?

現在の私達の研究テーマ「酵素の触媒作用力・立体選択性作用のしくみの解明」において解明に少しでも近い実験データとその帰納的解釈を提案すること以外に答が思い浮かばない。究極的には、それが酵素の合目的利用に少しでも貢献できれば最高であるが・・・。例えば、酵素を化合物合成の手段として利用している人々に取っては、しくみよりも酵素がのぞみの機能を発揮することに関心があるかもしれない。それでも今さら鍵とかぎ穴を持ち出して、酵素は、その基質と結合し複合体を形成する触媒などと言わないで、せめて遷移状態の基質分子に相補的に結合し活性化自由エネルギーを低下させるタンパク質触媒とでも言って欲しいと思う。

1018倍にも達する酵素の巨大な加速効果、酵素反応機構は1998年末のJ. Biol. Chem.の特集も述べているように、生化学分野における最大の未解決問題であり、Chem. & Eng. Newsが毎年特集を組んで紹介している問題である。巨大な加速効果を生ずる要因として提案された誘導適合、結合エントロピー効果、低障壁水素結合、タンパク質のダイナミックス、トンネル効果、静電的相互作用 (現時点の本命か) からニャーアタックコンフォーマー説まで新しいアイデア、仮説が提案され、さらに新しい観点から修正されている。これらは仮に部分解であったとしても未だ完全解ではない。研究スパンが長く、30年以上酵素反応機構研究一筋という人が米国では多い。これが日本では逆にこの方面の研究者が少ない理由かもしれない。

企業の研究所に勤務していた時、酵素反応を利用したキラル化合物の単一エナンチオマー取得研究を行っていたことがある。これにより建設されたプラントが今も操業しているのを聞くのは楽しいが、研究としては酵素と基質を混ぜて撹拌し、相性が良ければものが得られるという単純さで、とても科学しているという気持ちにはなれなかった。フラストレーションが心の底に沈積した。これを少しでも取り除きたいという気持ちを駆動力に、文字通り定年の1日前まで研究に没頭された恩師を見習って、酵素 反応のしくみにチャレンジし続けたいと思っている。