【巻頭言】

酵素工学研究会会員の1人として

片岡道彦

阪府大院・生命環境

 

本年1月より、淺野泰久前会長の後を受け、会長職を拝命いたしました。中村聡(東工大)・松前裕明(田辺三菱製薬)両副会長ならびに役員諸氏のご協力の下、微力ながら本会の発展のため尽くして参りたいと存じますので、会員各位におかれましてはご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

酵素工学研究会は、設立以来すでに34年の長い歴史を持つ学会ですが、小生が酵素の研究に携わるようになってから、まだわずか30年弱の経験しかない若輩者です。この研究領域に足を踏み入れたのは、「発酵」と呼ばれる微生物によるもの作りに惹かれたことがきっかけでした。当時は、バイオテクノロジー、特に遺伝子組換え技術が注目され始めた頃でしたが、自分自身は発酵・微生物・酵素・遺伝子といった知識を体系的に理解できていなかったようで、正直に言えば、学生実験で学んだ微生物によるアミノ酸合成やアルコール発酵の経験を通して、微生物によるもの作りに関わる仕事がしたいと何となく考えて研究を始めたように記憶しています。当然のことですが、発酵や微生物生産の研究を始めれば、「酵素」が必要不可欠な要素であり、研究の中心となることは当然の成り行きでした。以来、30年弱にわたって様々な酵素の研究に携わってきました。様々な酵素と言っても、自然界に存在している酵素の数からすればごく限られたものでしょう。それでも、小生にとっては魅力的な存在でした。

酵素は今さら言うまでもありませんが、すべての生命にとって欠くことのできない生体分子であり、科学的な研究対象になるずっと以前から様々な反応を効率よく触媒することで生命や地球環境の維持に大きな役割を果たしてきました。微生物に限らず、動物・植物においても、エネルギーや生体構成成分を得るために常に多数の酵素が様々な反応を触媒しています。また、人類は、微生物における生命活動(酵素反応)を経験的に利用してアルコール発酵、乳酸発酵といった食品を初めとする有用物質生産の場に活かし、我々の生活を豊かなものにしてきました。しかし、生命の歴史から見ればごく最近のことですが、石油化学工業が発達していく中、物質生産の現場で利用される触媒は酵素ではなく、無機触媒が中心となってきました。特に、20世紀後半は石油化学工業の発達によって、私達の暮らしは便利で豊かなものになってきたことは間違いありませんが、一方で21世紀に移る頃から、石油化学工業に依存してきた物質生産の手法が様々な弊害を生み出してきました。原料やエネルギー源である化石資源の高騰や枯渇問題、化石資源の大量消費による二酸化炭素排出による地球温暖化などです。そのような状況の下、当然の成り行きとして生物機能すなわち酵素触媒の価値が改めて見直されてきています。酵素触媒は、生物が生きていく環境で働かなければならないため、常温・常圧下や水溶媒中での反応が得意であり、まさに省エネ型の触媒と言えます。また、酵素は物質生産の場だけでなく、洗剤に添加されたり、臨床検査にも応用され、様々な場面で活躍しています。今まさに解決が急がれている環境やエネルギーなどの諸問題を考えれば、社会にとって「酵素」の果たす役割はますます大きくなっていくものと思います。そ のような現状から、長い歴史を持つ酵素工学研究会にもまだまだこれから大きな役目が残っているように思います。酵素工学研究会の一員として、次のステップを目指し、産学官をあげて貢献していければうれしく思います。

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