【トピックス】
タンパク質自動解析用ツールの開発
宮下雪子、上田哲也
プレシジョン・システム・サイエンス
1.はじめに
当社 (プレシジョン・システム・サイエンス株式会社、以下、PSSと略) は、1995年にMagtrationと称する独自の磁性粒子制御技術を開発した。このMagtration技術は、世界10数カ国に特許出願・登録されている技術である。Magtration技術に基づき開発した全自動核酸抽出・精製装置は、現在までに1万台以上の装置が世界に販売されており、各種試料からのDNA/RNAの抽出1,2)に関して数多くの実績を持っている。また、これらの全自動核酸抽出装置は、臨床検査の場における核酸の抽出工程でも広く利用されている3)。
Magtrationとは磁性粒子の独自な自動制御法であり、図1のように分注チップの側面に磁石をあてて磁性粒子を分注チップ内で捕獲・分散させる技術4)のことである。磁性粒子とは、一般に酸化鉄の磁性体を含む直径0.1〜10µmの粒子であり、表面に様々な物質をコーティングすることによりDNA/RNA等の目的の物質を回収することが可能となる。さらに磁性粒子は、単位体積当たりの表面積が広く、目的の物質を大量に捕獲することができるという特徴を持つ。PSSはこの磁性粒子を利用することで、より効率よく目的物質を回収できるMagtration技術を考案した。一般の磁性粒子制御では、@磁性粒子の入った容器の外側に磁石を付け、上清をピペットで除去し、Aビーズに新たな試薬を加えて再懸濁する、という工程を繰り返す。これに対し、Magtration技術では、サンプルと磁性粒子の混合液を分注チップで吸引し、このチップの外側に磁石を接触させ、チップの内側に磁性ビーズを捕獲し、残った液体を容器に吐出するという、分注チップ内での磁性粒子のハンドリングを行う。Magtration技術を用いることにより、@数µLの溶液からの磁性粒子の分離が可能、A抽出工程におけるコンタミネーションが非常に少ない、B容器の移動が不要であるため全自動機の機械構造を単純化できる、などのメリット5)がある。

図1 Magtration技術
PSSでは、すべての反応/処理工程を分注に用いるチップ内で行うことをAll Processes in a Tip (APiT) 技術とよび、さまざまな工程をAPiT技術として確立させてきた (図2)。MagtrationもAPiT技術の一種であり、この技術を応用し、磁性粒子に抗体や抗原を固相化することで、容易にEnzyme Linked Immuno SorbentAssay(ELISA)を自動化することが可能となる。

図2 APiT技術
2.BIST技術について
APiT技術の一つである、Beads array In a Single Tip (BIST) 技術は、多項目の分析対象物質を同一容器の中で同時に解析するツールである (図3)。BISTは約1mmの直径のビーズをキャピラリー型チップに封入し、チップで溶液を吸引、吐出することで、ビーズ上での様々な反応工程を制御できるツールである6)。1本のBISTには約50個のビーズを封入することが可能で、PSSにおいては10種の遺伝子上の1塩基多型 (Single Nucleotide Polymorphisms, SNPs) を18個のビーズを使用し、解析を行った実績がある。封入するビーズには、目的に応じてタンパク質 (抗体を含む)、核酸などを固相することができ、前述のSNPs解析以外にも、ELISA反応も行うことが可能である。また、多様な種類のビーズ (ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、化学修飾ビーズなど) を使用することが可能であるので、目的に応じて多種多様な物質を効率的に固定し、その後の反応工程に用いることができる。反応後のビーズからのシグナル検出には、化学発光検出法を使用しており、高感度なアッセイの構築が可能である。

図3 BISTとは
BISTを用いるメリットとしては、@単一のサンプルを用いて同時多項目の解析を、同一の容器内で行うことができる、A遺伝子解析およびタンパク質解析の双方に対応が可能である、B形状が分注チップであり、結合、洗浄、検出などの各種工程がすべてチップの中で行われることから、自動化が容易である点、などがあげられる。次章において、現在検討を行っているアプリケーション例を紹介する。
3.BIST技術を使用して構築可能なアプリケーション例
(1) 抗原-抗体反応への利用
BISTに封入するビーズ上に抗体、もしくは抗原を固相化することで、ELISAを行うことが可能となる。PSSではさまざまな抗原もしくは抗体を固相化し、BISTへの応用の可能性を検討してきた。単一項目の測定系として甲状腺刺激ホルモンの測定系、多項目解析の一例として食物アレルゲンの検出系への適応に関して紹介する。
甲状腺刺激ホルモン (Thyroid Stimulating Hormone, TSH) は、下垂体前葉より放出されるホルモンであり、甲状腺からの甲状腺ホルモンの分泌を促進する。血中TSHの濃度異常は、甲状腺機能亢進、および甲状腺機能低下と密接に関連しており、これらに関連する疾患のマーカーの一つとなっている。PSSでは、抗TSHモノクローナル抗体を固相したビーズをキャピラリー型チップに封入し、HRP (Horse Radish Peroxidase) 標識-抗TSH抗体と試料中のTSHを反応させることで、TSHを検出するELISAの構築を行った (図4)。血中のTSH濃度を測定する際には、微量のTSHを高感度に測定すること、および幅広いレンジでの測定が可能なこと、が求められる。BISTを用いて構築したTSH測定系では、測定範囲の上限は約50µIU/mLであり、検出下限界は約0.01µIU/mLであった。これらの数値はTSHを測定系として実際に使用が可能なレベルの数値であった。同時再現性および日差再現性においてもバラつきの程度をCVで評価した場合に10%以内となり、再現の良い結果を得ることができた。また、反応時間は反応開始から検出まで約20分である。これらのデータはBISTを用いて、短時間で高感度な測定が可能であることを示した結果である。

図4 BIST技術を使用したTSH解析
卵、牛乳、小麦などの食品中の物質により、発症する食物アレルギーは時に重篤な症状を引き起こす。よって食品中にこれらのアレルギーを引き起こすアレルゲンが含有されているか、事前に検査をすることはアレルギーの発症を防ぐために重要なこととなる。しかし、食物アレルギーを引き起こす食品は様々であり、7大アレルゲンといわれている卵、牛乳、小麦、そば、落花生、カニ、エビ以外にも、多数の食品がアレルギーを引き起こすことが知られている。BISTは単一サンプル中に含まれる多数の抗原を同時に検出することが可能であり、食品中の食物アレルゲンの同時多項目検出は、BISTのコンセプトを利用できる最適なアプリケーションの一つと考え、PSSでは開発を行ってきた。ビーズにそれぞれ、卵白リゾチーム (Hen Egg white Lysozyme, HEL)、オボアルブミン (Ovalbumin, OVA)、牛乳由来のカゼイン (Casein)に対するモノクローナル抗体を固相し、抗体種ごとに2個ずつ、計6個の抗体固相ビーズを1本のキャピラリー型チップに封入した。このBISTに対して、各抗原およびHRPで標識した3種の抗原に対する抗体を同時に反応させた。反応後、BISTを洗浄した後に化学発光基質を吸引し、ビーズからの化学発光量を測定した。その結果、加えた抗原種に応じて該当の抗体を固相したビーズよりシグナルが得られ、同時に多数の抗原の有無を判定できる可能性が示唆された (図5)。

図5 BIST技術を使用した食物アレルゲン検出
(2) SNPs解析への利用
近年、次世代シーケンサーを用いた遺伝情報解析技術の飛躍的向上により、薬剤の効果や副作用の発症と関連する遺伝子型、もしくはSNPsの同定が行われている。しかし、遺伝子解析は時間、およびコストがかかること、および安定な結果を得るためには技術的にも熟練した技術者が行う必要があること、などの理由から、その普及の壁となっている。BISTを使用した遺伝子検査は、他の解析手法に比べて短時間、低コスト、簡便に試験を行うことができるようにデザインされている。BISTを用いた遺伝子変異解析方法は、図6に示す通り@試料からのDNA/RNAの抽出、AAllele Specific Primer Extension (ASPE) PCRを用いた標的DNAの標識、BASPE-PCR産物とビーズ上のDNAとのハイブリダイゼーション、Cハイブリダイゼーションの検出およびデータ解析、の手順からなる。ASPE-PCRにおいて、目的の遺伝子断片に蛍光物質などの標識をすることで、標識物質を含むDNA断片を捉えたビーズが発色 (または発光) し遺伝子の有無 (遺伝子型) を判定できる。

図6 BIST技術を使用した遺伝子変異解析方法
栄養指導に関する疾患感受性SNPであって日本人において数10%以上の頻度で存在し、その栄養指導上の根拠が明確な4種におけるSNPs解析を試みた7,8)。ビーズにそれぞれ、直接高血圧に関連するアンジオテンシノーゲン (AGT)、Met235Thr (M235T)、肥満関連遺伝子であるβ3アドレナリン受容体 (β3AR) Trp64Argと脱共役タンパク質1 (UCP1) A-3826G、葉酸代謝を通して有害な血清ホモシステインを抑制するメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素 (MTHFR) C677TのSNPsを判定するための核酸断片を固相し、全血から抽出した核酸に発光ラベルを取り込ませながら目的の遺伝子部位を増幅し、その増幅産物とビーズ上のDNAをハイブリダイゼーションさせ、ビーズの発光有無から、SNPsの遺伝子型を判定した。その結果、これら4種のSNPs解析にこれまで使用されていたPCR-RFLP法 (制限酵素断片長多型法) と判定された結果が一致し、遺伝子型の特定までの時間をこれまでの2日間から4時間程度に短縮できる可能性が示唆された。
同様の方法で、肥満関連遺伝子9種のSNPs解析をBISTで試みた。結果、判定された遺伝子型は、シーケンサーで判定した結果と一致し、BISTで最大9種のSNPs (18種の遺伝子型) を同時解析できる可能性が示唆された。
4.BIST技術を自動化する自動化機器の紹介
(1) LuBEA
BISTの反応を自動化する機器がLuBEA (Line-up BEads Assay) である (図7)。LuBEAはBISTを用いた、@サンプル中に含まれる物質と、ビーズに固相した物質との反応、A反応後のビーズおよびキャピラリーの洗浄、B化学発光を用いた検出工程、を自動化する機器である。反応に必要な試薬はカートリッジに分注し、BISTチップを装着した分注ノズルが、工程中で必要な溶液が封入されているカートリッジ内のウェルにに移動し、液体を吸引、吐出する。最終工程としては化学発光基質を吸引し、測定ユニットに移動したのちにビーズからの発光を読み取る。読み取ったシグナルは自動的に解析されて、解析結果が画面上に出力される。よって、反応は試薬カートリッジ、BIST、測定に供するサンプルおよび消耗品をセットし、スタートボタンを押すだけで結果が得られるシステムであり、小規模なクリニックなどで行われるPoint Of Care Test (POCT) や、特別な試験設備がない環境下においても、簡便に結果が得られるシステムとなっている。また、LuBEAは前述のELISAおよびSNPs解析 (ハイブリダイゼーション工程および解析工程のみ) の双方に対応しており、一台の機器で遺伝子およびタンパク質の解析が可能なユニークなシステムである。

図7 LuBEA
(2) geneTYPIST
遺伝子検査は有用なツールだと認識はされているが、その検査に必要な操作は煩雑であり、煩雑な遺伝子検査の工程を自動化することは、遺伝子検査のすそ野を広げるために必須であると考えられる。PSSでは、長年培ってきた自動核酸抽出機の技術と、BISTの自動化技術であるLuBEAを融合させる形で、BISTを用いた遺伝子検査の完全自動化を行える機器geneTYPISTを開発した。geneTYPISTは核酸の抽出、PCRによる増幅、BISTを用いた検出工程のすべてを自動化した機器であり、サンプル、試薬カートリッジ、BISTを所定の位置に設置し、工程をスタートすれば、機器が自動で解析に必要な工程の処理を行う。結果は自動で解析され出力される。工程に必要な時間は約2時間であり、比較的短時間で検査者は結果を知ることが可能なシステムとなっている。
5.BIST技術の今後の展開
BIST技術はタンパク質解析、およびDNA解析の双方に対応することが可能であり、かつ自動化も可能である。また、同時多項目の解析が可能なこと、タンパク質とDNAのハイブリッドアッセイの構築も可能であること、などから次世代の検査プラットフォームとして利用をしていきたいと考えている。
文献
1) Obata, K., Segawa, O., Yakabe, M., Ishida, Y., Kuroita, T., Ikeda, K., Kawakami, B., Kawamura, Y., Yohda, M., Matsunaga, T., Tajima, H.: J. Biosci. Bioeng., 91, 500 (2001).
2) 小森谷友絵, 稲井智栄, 刈屋 稔, 佐藤博信, 田島秀二, 神野英毅: 医学と生物学, 151, 394 (2011).
3) 玉造 滋: シーエムシー出版刊「月刊バイオインダストリー」, 21, 39 (2004).
4) 澤上一美: Medical Technology, 30, 623 (2002).
5) 東條百合子, 小幡公道: Medical Science Digest, 28, 48 (2002).
6) 澤上一美, 田島秀二: シーエムシー出版刊「磁性ビーズのバイオ・環境技術への応用展開」 (2006).
7) 香川靖雄: メディカルバイオ、7月別冊.
8) Kagawa, Y., Hiraoka, M., Miyashita-Hatano, Y., Shishido-Oki, M., Yoshida, M., Kondou, S., Sugiura, M., Sawakami-Kobayashi, K., Takahashi, M., Tajima, H., Yohda, M.: J. Biosci. Bioeng., 110, 505 (2010).