【Enzyme Engineering Award】

淺野泰久 富山県立大学教授 国際酵素工学賞受賞

片岡道彦

阪府大・生命環境

 

第22回国際酵素工学会議 (Enzyme Engineering XXII) において、国際酵素工学賞 (Enzyme Engineering Award) が富山県立大学教授 淺野泰久先生 (本会前会長・名誉会員) に授与された。本賞は、酵素工学分野において特に優れた成果を上げた研究者に対して、2年ごとに開催される標記国際会議において与えられる。1983年開催の第7回会議から制定され、これまでに16組18人の著名な研究者が受賞してきた。日本からは、千畑一郎先生 (旧田辺製薬(株)元会長)、故福井三郎先生 (京都大学名誉教授)、山田秀明先生 (京都大学・富山県立大学名誉教授)、清水 昌先生 (京都大学名誉教授) がすでに受賞されており、淺野先生が5人目の受賞者となった。これまでの受賞者の約1/3を日本人研究者が占めており、我が国における酵素工学分野の研究レベルの高さと実学としての酵素工学の展開が、国際的に広く認められているものと思われる。

淺野先生の研究内容は多岐にわたる。酵素を用いた有用物質生産、酵素の臨床診断への応用、そしてこれらの応用展開を実現するための酵素の探索・改良・基礎解析などを精力的に進められてきた。酵素を用いる有用物質生産では、うま味成分のひとつであるイノシン酸・グアニル酸の効率的生産のために、安価なピロリン酸をリン酸供与体として、ヌクレオシドの5’位の選択的リン酸化を触媒する新規なリン酸化酵素の発見・改良を成し遂げ、年産1万トンの実生産を実現している。また、山田秀明先生の研究室で学ばれていた頃に、「ニトリルヒドラターゼ」を初めて見出し、アクリルアミドの酵素的工業生産の礎を築かれた。その技術は現在も年産40万トン以上のアクリルアミド生産に利用され続けており、ホワイトバイオテクノロジーの最も有名な成功例として認知されている。ニトリル分解に関わる微生物酵素は、このように工業的物質生産の場で世界的な成功を収めた訳であるが、さらにニトリル化合物の生合成についても研究を進められ、新たに「アルドキシム-ニトリル経路」を発見された。一つの成功に満足せず、新たな課題に挑み続ける淺野先生の研究姿勢に対しては、崇敬の念を抱かざるを得ない。

一方、酵素の臨床診断への応用については、フェニルアラニン脱水素酵素によるフェニルケトン尿症のマススクリーニングが挙げられる。本酵素は、当初L-アミノ酸合成のための触媒として見出されたが、その基質特異性に着目し、血中フェニルアラニン等の臨床診断に利用された。過去20年間で日本の新生児500万人の検査が行われ、約80人のフェニルケトン尿症患者の発見に至っている。また、アミノ酸関連酵素の開発として、D-体選択的アミノ酸アミダーゼとアミノ酸アミドラセマーゼを組み合わせたD-アミノ酸の立体選択的生産プロセスの開発にも成功している。淺野先生は、研究を進めていく上で、常に別の側面からの応用を視野に入れながら取り組むことで、物質生産のみではなく臨床診断等の様々な分野への展開も可能にしているように思う。そのような広い視野を持った研究を行わなければと思うことしきりである。

淺野先生は、今回の国際酵素工学会議の日本への招致から、富山での開催に至るまで大変尽力された。開催経費の確保は無論のこと、これまで培われてきた淺野先生の国内外を問わぬ人的交流が今回の会議を成功に導いたことは言うまでもない。本賞受賞は、我々酵素工学研究会会員にとっても大変な名誉なことであり、誇りに思う。先にも述べたが、本賞を多くの日本人が受賞しており、今後も5人の受賞者に続く世界に誇れる日本の酵素工学研究が進展することを願っている。なお、本賞の授賞式と受賞記念講演は、会議最終日のバンケット直前に行われた。受賞講演での研究内容に関する紹介は重厚なものであったが、さらに富山出身の高峰譲吉博士の話や富山から岐阜・愛知に至る「ノーベル街道」の話等も盛り込まれ、淺野先生が富山を愛する心が随所に見られる大変印象に残る記念講演であった。最後に、本誌面をお借りし、淺野先生の本賞受賞に対する祝意とともに、本会議開催へのご尽力に対する感謝の意を表し、さらなる研究の発展を祈念したいと思います。

 

左 淺野泰久前会長、右 Pierre Monsan氏 (プレゼンター)