【トピックス】
大規模植物工場における苗選別ロボットシステムと概日リズム診断
福田弘和、守行正悟、有働龍太
阪府大院・工、阪府大院・工、阪府大院・工
1.はじめに
世界中で異常気象や環境汚染による土壌の荒廃が年々深刻化し、農業生産の停滞が危惧されている。そのような状況を打破する新しい農業の手段として植物工場が近年注目されており、国策として研究・開発が進められている1)。特に近年開発が目覚ましいのが、人工光型植物工場である。人工光型植物工場は、光・温度湿度・二酸化炭素濃度・培養液組成などの栽培に必要な環境条件を全て施設内で制御でき、季節や場所に捉われずに植物の安定生産を実現できる利点がある1)。この利点により、砂漠地帯や寒冷地など海外の耕作不適地での植物生産が可能となるため、植物工場は輸出産業としても期待されている。しかしながら、人工光型植物工場は照明と空調管理に膨大な電力を必要とするため、ランニングコストの低減が最大の課題となっている。この対策として、消費電力の70%を占める光源に対して省エネ化を図ることや、自動化による省力化が挙げられるが、生産システムの大規模化による生産工程の高効率化も重要な技術課題となっている1)。
大規模植物工場では、種子・苗等のサンプル標本数が膨大となり、その結果、苗の個体差は安定した統計量として現れてくる。この個体差をもとに優良な苗を選抜するのが苗選抜であり、歩留り向上において有効な手段となる。また、大規模植物工場では毎日数千本に及ぶ苗選別が必要であり、この処理量は、継続性と信頼性の面から人手による作業は困難であり機械化が必須となる。
一般に大規模な苗診断には、汎用性が高く高速処理が可能な画像計測法が採用されている。通常、画像による診断は、苗の形状や大きさを指標とし撮像回数は一度である。しかし、診断精度の向上のためには、複数回計測 (時系列計測) が有効であることが往々にしてある。この有効性は、概日リズムと呼ばれる周期約一日の生体リズムが多くの生体情報に含まれることに由来する2)。例えば光合成速度や成長速度は、光・温度が一定の恒常的な環境下においても、一日を周期として増減を繰り返すことが知られている。従って、概日リズムからその振幅や周期などの特性量を抽出し、苗診断の指標とすることが診断精度向上において有効である3)。
一方で、植物工場の大規模化に伴い、必然的に栽培環境は広くなり、環境の制御はますます難しくなる。特に、温度分布の不均一化や時間変動などが発生するリスクが高まる1)。植物の成長は、発芽期も含め、温度に対して感受性が高く、植物の概日リズムも温度に対して感受性が高いことが知られている4)。したがって、温度変動が概日リズムに及ぼす影響を評価することは、苗選抜の精度向上において重要な課題である。
本稿では、大規模植物工場における最新の苗選別ロボットシステムを紹介する。このシステムの特徴は、毎日5,000株の苗を対象に時系列的な診断を行い、概日リズムの診断も実施できる点である。また、上述のように概日リズムは温度に対する敏感性をもつため、苗診断時において高精度な温度調節が必要となる。最近当研究室で明らかにした温度ゆらぎが概日リズムに与える影響についても紹介したい。
2.大規模植物工場と苗選別ロボットシステム
図1は、経済産業省「イノベーション拠点立地整備事業」の補助を受け、2014年9月に竣工した大阪府立大学の大規模植物工場である。日産5,000株の栽培能力をもった国内でも有数の大規模植物工場である。当施設では、ランニングコスト40%減の実現を目標とし、次の3つの主な取組を行っている。@苗選別ロボットシステム (歩留り向上)、A自動化栽培システム (省力化)、B栽培光源の完全LED化 (省エネ化) である。@Aは特に今回開発された独自のシステムとなっている1)。

図1 大阪府立大学 新世代植物工場1)
ここでは苗選別ロボットシステムを紹介する。選別母数は6,000本/日とし、優秀苗として5,000本/日を選別する。苗選別は、緑化室における4日間の播種・緑化工程の最終段階で行い、播種、芽出し、緑化、苗選別の順で行う。毎日6,000本という処理量は、継続性と信頼性の面から機械化が必須となる。
以下は診断スキームの概要である。播種・緑化工程では、給水後2日間暗室にて芽出しを行い、その後4日間白色LED光による緑化を行う。緑化の最終日 (緑化工程の4日目開始から4日目終了後) において、緑化と同時進行で苗診断を行う。最終日に6,000本の苗の検査を行い、苗診断で上位にランクするものから5,000本を選抜する。播種は専用の発芽用パネル (300本/パネル、パネルサイズ600×300 mm、培地:ウレタンマット) にて行い、緑化の省スペース化と作業の効率化を図る。全ての搬送過程において、2つのパネルを1単位とした取扱いを行う。緑化室、そして苗診断システムへの移動は、全て自動搬送装置を用い所定のプログラムに従って行われる。
苗診断のシステムは、高感度・高解像度の冷却CCDカメラとクロロフィル励起用の青色LED装置から構成される。発芽用パネルごと暗箱内に自動搬送装置で移動させ、青色LED光を励起光として、植物体のクロロフィル色素を励起させる。クロロフィルから生じる蛍光を4時間毎に1日に6回撮影する (図2)。計測1回あたり5分間の動画データを取得し、個体サイズ、形状、クロロフィル蛍光を計測する。このように取得された1日6点の時系列データから、@個体サイズ、A形状ついての形態データ、Bクロロフィル蛍光強度、C概日リズムの振幅、D概日リズムの周期などを算出する。@〜Dを苗診断に関する基礎データとし、所定の評価関数を用いて苗の優良性を数値化する。苗診断の評価関数は、機械学習なども利用して定める。毎日6,000本の苗診断を行うと約半年で106個体のデータを蓄積でき、この膨大な苗診断データは、大学研究室のサーバーで保管・解析され、苗診断のパラメータ更新や新規アルゴリズム開発に利用される。


上述の診断作業は24時間連続して行われ、選別直前に全個体に優良性の数値が付与される。全個体のIDと付与された優良性の数値を自動定植ロボットに伝送し、上位5,000株の選抜を行い、育苗用のパネルに定植する。自動定植ロボットは、基本的にはマニュアル操作によって起動するものとし、作業者の同伴のもとでパネル一枚ごとに自動定植を行う。作業者は、定植完了のパネルを次ステージの育苗室へ移動させた後、次の自動選抜・定植を行う。作業者同伴とすることで、複雑な搬送機構を省略でき、搬送システムの開発・製作にかかる過剰なコストを抑えることができる。なお、育苗用パネルは、育苗の省スペース化と作業の効率化を考慮し、150苗/パネル、パネルサイズ890×590 mmとなる。
苗診断において概日リズムに着目している点は世界的にも初めての試みであり、これにより苗診断の精度の向上を目指している。
3.発芽期における概日リズム
筆者のグループでは、植物工場の技術開発と同時に、植物の概日リズムについても研究を進めている。図3は、遺伝子組換えグリーンウェーブレタス (AtCCA1::LUC) を用いて計測した発芽期における概日リズムの様子である5-7)。ここではルシフェラーゼ遺伝子をレポータとして用い、遺伝子の発現量を非破壊で計測している。計測装置にはKondotronと呼ばれるハイスループット生物発光自動計測装置を用いた。ルシフェラーゼ発光の時系列データは植物個体によって異なる特徴を持つ。図3Aの個体では、おおよそt=48 hでルシフェラーゼ発光量が急増し、高振幅を示している。t=48 hにおける発光増大は、発根が確認される時間と一致する。一方、図3Bの個体では、高振幅を示した後、t=216 h以降において振幅が著しく減衰している。また図3Cの個体では、高振幅を示さず、振幅が途中で大きくなるなど図3ABとは異なる発光を示した。本実験では合計80体の発光計測実験を行ったが、図3Aと同様の発光パターンを示した個体は37体、図3Bは25体、図3Cは13体、発芽しなかった個体は5体であった。


4.集団同期と温度ゆらぎ
上述のように、概日リズムは温度変動に対して感受性をもつ。そのため栽培室において温度が変動すると概日リズム計測においてノイズが入る。以下では、個々の苗がもつ概日リズムの集団同期に着目して、温度ゆらぎが概日リズム計測におけるノイズとなることを紹介する。
図4は、栽培温度の例である。図4Aは温度を一定に制御した場合 (制御温度条件 (a))、図4Bは温度制御を行っていない場合 (成り行き温度条件 (b)) である。また、概日リズムの集団同期率Rを次のように定義して表示している9)。

ここでøjは苗jの概日リズムの位相、Nは苗の総数である。制御温度条件 (a) における温度TaはTa=26±0.2℃でほぼ一定の温度が保たれている (図4A)。この条件の下で同期率Raは、発芽初期 (t=48 h付近) においてRa=0.7付近の比較的高い値を示しているが、その後減少していき、Ra=0.2〜0.5を推移した。図4Aから、初期条件と同等以上の同期率に回復できないことが分かる。これは、個体間の同調を促す要因が存在していないことを意味している。


一方、成り行き温度条件 (b) で測定された温度TbはTb=23.8±2.0℃で変動が大きいことが分かる (図4B)。特にt=72〜144 hにおいて日周期の温度変動 (最大温度差3℃) や、t=264〜288 hに急激な温度低下 (温度差3℃) が見られる。同期率Rbは発芽初期 (t=48 h付近) においてRb=0.6を示している。これは、制御温度条件 (a) における同期率Raと同程度の値である。その後、t=72〜144 hの周期的温度変動がみられる時刻ではRb=0.94まで上昇し、またt=264〜288 h における温度低下時においても、急激な同期率の上昇がみられ、その後高い同期率Rb=0.83を示している。
以上のことから、温度変動がない場合、同期率は時間とともに低下するが、温度変動があると直ちに集団の同期率が増加することが分かる。
5.植物工場における温度管理と概日リズム
植物工場における周期的な温度変動が植物栽培に与える影響について述べる。苗選抜においては、植物の概日リズム特性をもとに個体間の将来的な成長の差異を同定している。しかしながら、栽培環境に周期的な温度変動が生じると個体同士が温度変動に同期してしまい、各植物個体が持つ概日リズム特性の差が消失する。その結果、概日リズム特性による個体差の判別が困難になるため、苗選抜を行う育苗段階では、温度変動の発生をできるだけ抑えるよう温度管理をしなければならない。
また逆に、栽培室においては、温度変動が個体間の同期を促進するため、栽培植物の概日リズムを斉一的に制御する際に大きな利点となる。その一方で、大規模な栽培室では互いに離れた栽培区の間に温度変動の位相差が表れやすい。概日リズムの制御は光によっても行われるため、光の明暗の位相と温度変動の位相の間にも差が生じることも考えられる。そのような場合、栽培室全体に渡る植物の概日リズムを均一に制御すことができず、植物の成長の度合い、すなわち品質の均一性に影響が出てしまう可能性がある。以上の理由から、苗選抜においては温度変動の発生をできるだけ抑え、また栽培室においては温度不均一性が生じないよう、精度の高い温度管理が求められる。
6.おわりに
昨今の天候不良は作物の高騰を引き起こし、結果的に人工光型植物工場への需要増大につながっている。植物工場の技術開発はここ数年で急速に進展しているが、まだまだ課題は多い。コスト低減の面から大規模化が必須であり、それに伴い作業の自動化や環境均一化の技術開発が必要である。これまでも、栽培自動化技術や環境制御技術についての研究開発は行われてきたが、十分な生物データに基づく研究開発であったとは言い難い。各種技術開発は、あくまで対象となる植物の状態を緻密に計測分析し、最適化技術を設計すべきである。本稿で紹介した概日リズムの温度感受性に着目した空調制御指針は、その一例である。
近年、網羅的な遺伝子発現を含む膨大な生物データの取得や蓄積、そしてその解析に必要な時間やコストは劇的に小さくなってきている。今や、大規模生物データに基づく最適化技術の設計は、十分に挑戦できる状況となっていると言える。自動化を得意とし膨大な生物データを容易に取得できる植物工場と大規模生物データ研究の融合は、新たな学術として魅力的であるだけでなく、新たな産業技術の基礎として期待される。
謝辞
本研究は、経済産業省イノベーション拠点立地事業とJST A-STEP顕在化、文部科学省科学研究費補助金 (No. 25712029, No. 25119721) による支援を受けて行った。
文献
1) Takatsuji, M., Kozai, T. (editorial supervision): ”Important Task and Countermeasure of Plant Factory Management”, Institute for Information. (2014), (in Japanese).
2) Farre, E. M.: Plant Biol., 14, 401 (2012).
3) Fukuda, H., Ichino, T., Kondo, T. Murase, H.: Environ. Control Biol., 49, 51 (2011).
4) Thines, B., Harmon, G. F.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 3257 (2010).
5) Ukai, K., Inai, K., Nakamichi, N., Ashida, H., Yokota, A., Hendrawan, Y., Murase, H., Fukuda, H.: Environ. Control Biol., 50, 237 (2012).
6) Higashi, T., Kamitamari, A., Okamura, N., Ukai, K., Okamura, K., Tezuka, T., Fukuda, H.: Environ. Control Biol., 52, 21 (2014).
7) Udo, R., Moriyuki, S., Ukai, K., Fukuda, H.: Trans. of the JSRAE, 31, 123 (2014), (in Japanese).
8) Fukuda, H., Murase, H., Tokuda, I.: Scientific Reports, 3, 1533 (2013).