【トピックス】
抗カンジダ活性を有するプロタミン酵素分解物のオーラルケア素材としての応用
庵原啓司
マルハニチロ株式会社
1.はじめに
Candida属酵母は、ヒトの消化管の常在菌で、通常は病原性を示さないが、宿主生体防御能の低下に伴って様々な日和見感染症を引き起こすことが知られている。特に口腔、咽頭、および食道カンジダ症は、唾液分泌の低下、糖尿病、抗生物質や免疫抑制剤の長期投与、口腔衛生管理の低下等にともない好発する疾患である1)。また近年では、種々の炎症性疾患の誘因にカンジダ感染が関係するとの指摘もある2)。現在、カンジダ菌に対してはアゾール系抗真菌剤が臨床で使用されており、少なくとも一時的な治癒は可能である。しかし、再発頻度が高いことや、長期使用に伴い耐性カンジダ菌が出現することなど、解決すべき問題がある。そのため、抗真菌剤のみに頼るのではなく機能性食品などを用いることによって、日常生活で持続的に適用可能な新たな防御法の開発が必要とされている3)。
プロタミンは、サケやニシンなどの魚類の精巣 (白子) から得られる抗菌活性を有する塩基性タンパク質であり、天然物由来の食品保存料として利用されている。プロタミンは、@熱安定性が高い、A中性ないしアルカリ性の食品においても保存効果がある、B食品の呈味、香り、食感等に影響がない、といった特性を有する4)。また、原料となる白子は、鍋物用の具材として食されるなど、日本人にとっては古くからの食経験もある。プロタミンについては、マウスに対する急性毒性試験やラットに対する亜慢性毒性試験等5)で安全性が確認されていることから、優れた抗菌タンパク質である6)。ただし、プロタミンが強い抗菌活性を示すのはBacillus属や乳酸菌などのグラム陽性細菌に対してであり7)、酵母や糸状菌に対する抗真菌活性は非常に弱いことが知られている8)。
プロタミンの部分ペプチド (部分分解物) の機能に関する研究も行われており、内部配列に相当するVSRRRRRRGGRRRRには、遺伝子治療ドラッグデリバリーシステムのDNA担体としての機能9)やヘパリンの特異拮抗体としての機能10)があると報告されている。同じく、内部配列であるRRRRRRGGRRRRについてもヘパリンの特異拮抗体として機能することが報告されている11)。そして調べた限り、プロタミン部分ペプチドの抗カンジダ活性に関する報告事例はなかった。
そこで、プロタミンの抗菌スペクトラムの増強を目的とし、プロタミン酵素分解物の抗カンジダ活性について検討し、口腔カンジダ症予防を含めたオーラルケア素材としての応用を目指した。
2.プロタミン酵素分解物のカンジダ菌に対する生育阻害活性12)
プロタミンおよび各種プロタミン酵素分解物 (いずれも添加濃度100μg/ml) のCandida albicansに対する生育阻害活性を図1に示す。プロタミン (未分解物) の活性は僅かに認められる程度であったが、各種タンパク質分解酵素 (サーモライシン、ブロメライン、パパイン) 処理で得たプロタミン分解物には50%程度の生育阻害活性が認められた。また、プロタミンの主要な構成アミノ酸であるアルギニンでは活性は認められなかった。これらの結果から、酵素処理により生成した特定のペプチドが活性に関与していると考えられた。


3.抗カンジダ活性ペプチドの同定12)
プロタミンのサーモライシン分解物の活性画分から、活性ペプチドの探索を行った。すなわち、サーモライシン分解物を逆相HPLCに供して分画し、C. albicansに対する生育阻害活性を指標として活性画分を得た。次いで活性画分中のペプチドの一次構造をLCMS-IT-TOF解析により推定し、対応する合成ペプチドを用いて抗菌活性を評価した。その結果、活性ペプチドとして14残基からなるペプチド;VSRRRRRRGGRRRR (プロタミンペプチド) を同定した。本ペプチドには生育阻害率90%以上の強い活性が認められた。
プロタミンのアミノ酸配列13)とサーモライシンによる推定切断部位を図2に示す。同定したプロタミンペプチドは、Seq-2及びSeq-3配列のC末端に位置しており、サーモライシン分解物における抗カンジダ活性の増大は、酵素分解によるこれらの部位の遊離によるものと推察された。なお、サーモライシン分解物 (ペプチド混合物) 中の本ペプチドの含量をLC/MSにより定量したところ、36%と主要なペプチドであることがわかった。本ペプチドが抗真菌活性を有するという報告例はなく、新規な発見であった。

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4.抗カンジダ活性ペプチドの構造活性相関12)
C. albicansに対する強い生育阻害活性が認められたプロタミンペプチド (VSRRRRRRGGRRRR) について、部分構造と活性との相関を調べた。すなわち、種々の長さと配列の短鎖ペプチドを合成し、抗カンジダ活性を評価した (表1)。その結果、VSRRRRRRGGRRRR (14残基) からN末端の4残基を除いたRRRRGGRRRR (10残基) でも生育阻害率40%と中程度の活性を示した。さらに両末端のアルギニン残基を除いたRRRGGRRR (8残基) では生育阻害率が10%程度に低下した。このことから、GGを4残基以上のアルギニン鎖で挟んだ場合に活性が生じると推察された。
表1 各種短鎖合成ペプチド(各100μg/mL)のC. albicans NBRC1594に対する生育阻害活性 (参考文献12)より転用)

5.プロタミンペプチド (VSRRRRRRGGRRRR) の抗カンジダスペクトルと作用メカニズム14)
C. albicansに対する強い生育阻害活性が認められたプロタミンペプチドの最小発育阻止濃度 (MIC) は、1.6μMだった (表2)。唾液由来の抗カンジダペプチドとして知られるヒスチジンリッチな塩基性ペプチドHistatin-5 (Hst-5) のMICは0.8μMであり、プロタミンペプチドの方が僅かに高い値だった。一方、最小殺真菌濃度 (MFC) については、プロタミンペプチドが2.5μMでHst-5が5.0μMであり、プロタミンペプチドの方が僅かではあるものの優れていた (表2)。
表2 プロタミンペプチドペプチドおよびHst-5のC. albicans SC5314に対する抗真菌活性 (参考文献14)より転用)

C. albicans以外のカンジダ菌 (C. glabrata, C. tropicalis, およびC. krusei) に対する抗真菌活性も調べ、Hst-5と比較した (表3)。Hst-5ではC. glabrataに対して100μMでも抗真菌活性が認められなかったが、プロタミンペプチドは2.5μMで活性を示した。
表3 プロタミンペプチドペプチドおよびHst-5の抗カンジダスペクトル (参考文献14)より転用)

次に、プロタミンペプチドの抗真菌活性の作用機序について検討した。C. albicansの酵母形から菌糸形への形態変換を誘発するSpider培地において、プロタミンペプチド10μMを添加したところ、ペプチドはエンドサイトーシスではなく、エネルギー依存的に細胞内に到達し、ATPの流出や活性酸素の産生を経て殺菌的な効果を示すことが判明した。抗真菌活性を示さない低濃度では、プロタミンペプチドは細胞内には到達せず、細胞表層に付着して菌糸形への形態変換を抑制した。すなわち、プロタミンペプチドはC.albicansに対して濃度依存的に殺菌作用と形態変化抑制作用を示すことが明らかとなった。
6.義歯床素材PMMA上での抗カンジダ活性15)
義歯床素材ポリメチルメタクリレート (PMMA) 上でのプロタミン酵素分解物の抗カンジダ活性について、水晶発振子マイクロバランス法によりC. albicansの初期吸着量およびバイオフィルム形成量を評価した。その結果、プロタミンの酵素分解物 (サーモライシン、ないしブロメラインによる分解物) に含浸させたPMMAでは、初期吸着量およびバイオフィルム形成量が有意に低下することが明らかとなった (図3)。このことから、プロタミン酵素分解物は義歯床に抗カンジダ活性を付与することが示唆された。


7.口腔カンジダ症モデルマウスを用いた評価16)
Takakuraらが開発したマウス口腔カンジダ症モデル17)を用いてプロタミン酵素分解物の効果を検証した。すなわち、マウスにC. albicans TIMM1768を接種 (感染) 後、種々の濃度のプロタミン酵素 (ブロメライン) 分解物溶液を口腔内に計3回 (接種から3時間後、24時間後、27時間後) 滴下投与し、接種 (感染) 2日後に舌症状 (舌スコア) および舌生菌数を測定した (図4)。図5に示すように、プロタミン酵素分解物を25 mg/mL以上の濃度で投与することによって、接種 (感染) 2日後の舌症状に有意な改善が認められ、図示してはいないが125 mg/mL投与群では菌数も有意に減少した。また、舌組織切片を作製し、PAS染色により病理組織学的観察を行ったところ、陰性コントロール群では舌表面に多くの菌糸が認められたのに対し、プロタミン酵素分解物25 mg/mL投与群では、菌糸形成が抑制される所見が認められた (図6)。

図4 口腔カンジダ症モデルマウスを用いた評価と舌スコアの判定

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図6 口腔カンジダ症モデルマウスの舌組織切片観察 (↓:菌糸の形成)
8.おわりに
プロタミン酵素分解物は、種々のカンジダ菌 (C. albicans、C. glabrata、C. tropicalis、 C. krusei) に対して抗菌活性を示した。これらの活性は、プロタミンを各種酵素で分解して得られるプロタミンペプチドによってもたらされ、細胞内にペプチドが到達することによって殺菌的作用が発現することが判明した。このプロタミン酵素分解物は義歯床素材PMMA表面において抗カンジダ活性を示し、口腔カンジダ症モデルマウスを用いた評価実験でも舌症状に有意な改善をもたらした。カンジダ菌を原因菌とする口腔カンジダ症は高齢者 (特に義歯装着者) に多く見られる症状である。義歯洗浄剤や口内洗浄剤、機能性食品などにプロタミン酵素分解物を添加すれば感染予防につながる可能性が示された。
プロタミン酵素分解物は食品 (天然物) 由来で容易かつ安全に摂取 (投与) できることから、お年寄りでも安心して使用できるオーラルケア素材としての応用が期待される。
謝辞
本稿で紹介した研究は、共同研究でお世話になった先生方のご協力で行われました。
プロタミンペプチドの抗真菌メカニズムの解析に関して、福岡歯科大学の長環准教授、永尾潤一講師に厚く御礼申し上げます。PMMA上での抗カンジダ活性に関して、東京歯科大学の吉成正雄教授、三浦直准教授、鶴見大学の早川徹教授に厚く御礼申し上げます。口腔カンジダ症モデルマウスを用いた評価に関して、帝京大学医真菌研究センターの安部茂教授、羽山和美先生に厚く御礼申し上げます。
また、この度、貴重な執筆の機会を頂きました横浜国立大学の武田穣准教授には心より感謝申し上げます。
文献
1) 安部 茂: 真菌誌, 45, 227 (2004).
2) 安部 茂, 滝沢登志雄: Med. Mycol. Res., 5, 11 (2014).
3) 安部 茂, 二宮健太郎, 石島早苗, 高橋美貴, 丸山美保, 羽山和美: Med. Mycol. J., 2, 15 (2011).
4) 野ア一彦: J. Antibact. Antifung. Agents, 23, 635 (1995).
5) 多田幸恵, 池田虎雄, 高橋 博, 矢野範男, 湯澤勝廣, 長澤明道, 坂本義光, 福森信隆, 三栗谷久敏, 田山邦昭, 青木直人, 佐々木美枝子: 東京都立衛生研究所研究年報, 49, 267 (1998).
6) 庵原啓司, 根本えりか: 月刊フードケミカル, 4, 24 (2006).
7) Islam, N. M. D., Itakura, T., Motohiro, T.: Bull. Jap. Soc. Sci. Fish., 50, 1705 (1984).
8) Kamal, M., Motohiro, T., Itakura, T.: Bull. Jap. Soc. Sci. Fish., 52, 1061 (1986).
9) Park, Y. J., Liang, J. F., Ko, K. S., Kim, S. W., Yang, V. C.: J. Gene. Med., 5, 700 (2003).
10) Liang, J. F., Zhen, L. C., Chang, L. C., Yang, V. C.: Biochemistry (Moscow, Russian Federation)., 68, 116 (2003).
11) Liang, J. F., Yang, V. C., Vaynshteyn, Y.: Biochem. Biophys. Res. Commun., 336, 653 (2005).
12) 庵原啓司, 河原ア正貴, 古賀倫子, 関戸治知, 杉本正裕, 江成宏之:防菌防黴, 37, 413 (2009).
13) Hoffmann, J. A., Chance, R. E., Johnson, M. G.: Protein Expr. Purif., 1, 127 (1990).
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15) Miura, T., Hayakawa, T., Okumori, N., Iohara, K., Yoshinari, M.: J. Oral Tissue Eng., 8, 30 (2010).
16) 御手洗誠, 羽山和美, 庵原啓司, 安部 茂: 第58回日本医真菌学会総会プログラム抄録集, 55, 102 (2014).
17) Takakura, N., Sato, Y., Ishibashi, H., Oshima, H., Uchida, K., Yamaguchi, H., Abe, S.: Microbiol. Immunol., 47, 321 (2003).