【トピックス】
新規なデンプン糖化酵素製剤Extenda®の開発
綾部圭一
ノボザイムズジャパン株式会社
1.はじめに
デンプンの酵素分解 (糖化) によるグルコース生産の歴史は長く、国内では昭和30年代頃からサツマイモデンプンを原料として、また昭和42年ごろからはトウモロコシデンプンを原料としてグルコースの生産が行われてきた。現在では主にトウモロコシ、小麦、ジャガイモ、キャッサバなど様々な由来のデンプンが市場価格に応じて用いられているが、そのうちトウモロコシが約7割を占めている。生産されたグルコースの大部分はさらに甘味の強い異性化糖 (果糖ブドウ糖液糖) に変換されて清涼飲料に用いられるが、グルコース自体の用途としては発酵生産の原料等に用いられたり、結晶化による精製を経て点滴輸液に用いられるなどする。
トウモロコシデンプンの酵素糖化は主に液化、糖化という二つの工程を経て行われる。液化とは、不溶性のデンプンを文字通り液状にして分解しやすくする工程である。この工程では水を加えてスラリー状にしたデンプンを高温 (90℃以上) にして糊化するが、このままでは粘度が高すぎるため、同時に耐熱性α-アミラーゼによる部分的な分解を行って高濃度 (30%-36%) ながら粘度の低いマルトデキストリン溶液にする。続く糖化工程では、この溶液の温度を60℃, pHを 4.3前後まで下げた後、グルコアミラーゼを用いてマルトデキストリンをグルコースにまで変換する。グルコアミラーゼはデンプンやマルトデキストリン鎖の非還元末端から一つずつグルコースを遊離するエキソ型の酵素である。
グルコアミラーゼはデンプンに含まれるα-1,4およびα-1,6グルコシド結合を両方切断することができるため、原理的には巨大なデンプン分子をグルコースにまで完全に分解できる。しかしながら、工業的な糖化では反応終了時点で全糖に対するグルコース含有率 (D-グルコースの別称DextroseからDXと呼ばれる) は95-96%前後であり、残りは二糖が約2-3 %、三糖が約0.5%, 四糖以上が1%前後となる。製糖工程ではこのDXが歩留まりに相当し、DXが高いほど、また初発の基質濃度を高くできるほど歓迎されるが、残念ながら基質濃度を高くするほど最終産物のDXは下がることが知られている。これは分解が不完全だからではなく、反応終了間際の高濃度グルコース溶液中においてはグルコアミラーゼの逆反応により二糖のマルトースやイソマルトースが生成されるためである (図1)。マルトースは平衡に達するまで分解され、それ以上は増減がない。一方、イソマルトースの生成は緩やかであるが、糖化条件下の平衡濃度は全糖の10%を越えるため、上昇を続ける。このためDXはある時点でピークに達し、それ以降は緩やかに下降していく。グルコアミラーゼは正逆両方の反応に関わるため、酵素添加量を増やしてもピークDXは向上しない。DXの向上のためにプルラナーゼが添加されているが、これはグルコアミラーゼの不得手なα-1,6結合の分解をプルラナーゼが担うことでグルコアミラーゼの添加量を抑え、逆反応の影響を下げるのが目的である。

![]()
これまでAspergillus niger由来のグルコアミラーゼとBacillus属由来のプルラナーゼを併用した糖化酵素製品が30年以上にわたって用いられてきた。この組み合わせが非常に優れていたことの証左ともいえるが、弊社は近年、従来よりも高いピークDXを見込める新たな糖化酵素製剤 Extenda®を開発し、2016年に海外市場にて発売した (日本では使用認可の申請中)。本稿は当該製品の開発経緯と科学的な裏づけについてご紹介する。
2.新規糖化用グルコアミラーゼのスクリーニング
開発のためにまず、様々な真菌類からクローニングされた100種類以上のグルコアミラーゼから、糖化に最適な候補分子の探索を行った。ここで指標にしたのは逆反応の速度である。正 (分解) 反応に対して逆 (縮合) 反応が遅いグルコアミラーゼが見つかれば、最終的なDXは高くなることは予想に難くないが、問題はどの反応を正反応とみなすかであった。初期の基質であるマルトデキストリン分子の80%近くはα-1,4結合のみをもつ直鎖分子で、グルコアミラーゼは速やかにこれを分解できる。しかし、残りの基質に含まれるα-1,6結合に対して多くのグルコアミラーゼはより遅い反応速度を示し、実質的にはα-1,6結合の分解が糖化工程の律速と考えられた。そこで、正反応の基質としてグルコアミラーゼであらかじめ部分分解しα-1,6結合を多く残したマルトデキストリン残渣 (HPLCにおいて4糖以上の分子が同じピークで現れることから、ここではDP4+と呼称する。DPはDegree of Polymerizationの略) を調製し、これを分解する速度を正反応速度とした。また逆反応は、30%グルコース溶液中で二分子のグルコース間にα-1,6結合が生じ、イソマルトースが生成する反応とした。このα-1,6結合に関わる正・逆反応の速度をそれぞれ横軸と縦軸としてプロットすると (図2)、その速度は驚くほど多様であることがわかった。中には従来のA.niger由来 グルコアミラーゼよりも逆反応が遅いにもかかわらず正反応の活性が高い分子も見つかった。正反応と逆反応の速度は比例するはずであるが、この場合二つの反応は完全な正逆の関係になく、特に正反応のDP4+基質は逆反応生成物であるイソマルトースよりかなり大きい (数-数十mer) ため、デンプン結合ドメイン (Starch binding domain, SBD) 等が分解速度に影響を与えているのかもしれない。これらの候補の中からさらに耐熱性等によって候補を絞り、さらにアミノ酸変異により60℃での反応に十分な耐熱化を施すことで、新規酵素製剤のグルコアミラーゼとした。

図2 野生型グルコアミラーゼ (GA) の正反応 (DP4+分解) と逆反応 (イソマルトース産生) の速度の分布
3.プルラナーゼおよびαアミラーゼが糖化に及ぼす影響
次に、選択したグルコアミラーゼに対し補助的な役割を担うプルラナーゼとαアミラーゼに関する検討がなされた。どちらの酵素も糖化速度を高める効果があり、従来の糖化用酵素にはその両方が含まれている (ちなみに、ここで用いられるαアミラーゼは液化で用いられる耐熱性αアミラーゼとは異なる)。ところが様々な配合を検討してみると、その効果は必ずしも加算的なものではなく、特にプルラナーゼ活性が高い条件では至適αアミラーゼのレベルが低くなることが明らかになった (図3)。高プルラナーゼ、高αアミラーゼ条件におけるピークDXの低下の原因は、通常の糖化と比べてパノースのレベルが顕著に上昇することによるものであった。パノースはα-1,4結合とα-1,6結合を一つずつ持つ三糖で、グルコアミラーゼにより分解されるものの、その分解速度は非常に遅いため、パノース濃度の上昇はピークDXにも影響を及ぼしていた。

![]()
ここで、パノース過剰生成のメカニズムを以下のように推測した (図4)。1) まず、αアミラーゼの添加によりマルトース等の小さな直鎖オリゴ糖が増加する。これらのオリゴ糖はグルコアミラーゼのエキソ活性により非還元末端から分解されるが、グルコアミラーゼは短い基質に対する反応性が相対的に低いため、一時的に最も短い基質であるマルトースの比率が高くなる。2) ここに多量のプルラナーゼが存在すると、マルトース同士の縮合反応を触媒し、α-1,6結合を伴うパノース前駆体 (62-α-マルトシルマルトース) が産生する。3) さらに、共存するグルコアミラーゼが前駆体の非還元末端のグルコースを遊離してしまうことで、パノースとなる。この多段階でのパノース生成メカニズムの検証のため、αアミラーゼの代わりとしてマルトースのみを生成するβアミラーゼを添加して糖化を行ったところ、大量のマルトースの蓄積に遅れてパノースのレベルも顕著に増加することがわかった (図5)。このことから、このマルトースの一時的なプールを介したパノース生成メカニズムは妥当であると思われた。

図4 パノース生成の推定メカニズム
4.Extenda®の性能と利点
これらの知見を基に、新規なグルコアミラーゼの採用とプルラナーゼおよびαアミラーゼ添加量の最適化が図られ、製品化されたのが、新たな糖化酵素製剤Extenda®シリーズである。中でも最も高いDXを目指したExtenda® Peakは従来の糖化酵素に比べて、どの基質濃度においても0.7-0.8%のピークDX増を見込むことができる (図6)。このピークDXは最終産物のグルコース純度とも言え、これが結晶グルコースの製造の際の収率に影響を与える (1%のグルコース純度上昇は3%の結晶収率増につながるとされる)。また異性化糖製造ではスペック (95.5%程度が多い) 以上のDXを必要としないが、DXを維持したまま初発の基質濃度を3ポイント程度上げることができるため、スループットの向上と後工程における濃縮のためのエネルギー削減が期待できる。
図6 様々な基質濃度においてExtenda® Peakと従来製品 (Dextrozyme® DX) が到達するピークDX
5.おわりに
近年弊社では、ここに述べた糖化用酵素Extenda®のほか、デンプン産業における主要な工程において新たな価値を提供するさまざまな酵素製品の開発を加速させている。デンプン糖化をベースとした製糖の歴史は長く、それゆえに用いられる産業用酵素は既にコモディティー化し、グローバルな価格競争に晒されている。それでもなお、顧客にとっての課題や価値を科学の言葉に徹底的に落とし込み、解決を図ることで競争力のある製品を開発することはまだまだ可能であると信じている。