【巻頭言】
ルーティーン(routine), 楕円(ellipse) そしてトライ(try):ラグビーと研究
みちひこ
小林達彦
秋はスポーツの季節である。体を動かさない生活を送るようになって久しいが、最近の大坂選手、大谷選手、渋野選手などの若者の世界での活躍は嬉しい。
今秋の目玉はなんといっても4年に一度のラグビーワールドカップ。しかも我が国での初めての開催。「4年前の英国でのワールドカップは、一次リーグ初戦で優勝候補の南アフリカ (最終的には3位) を下したジャイアントキリングは感動ものだった」と今、書いたところ、なんと再び強豪 (世界ランキング2位) から大金星を挙げたではないか。アイルランド相手に気合いの入った試合での勝利。目頭が熱くなった。
様々なドラマを生み出すラグビー。どのような経緯で誕生したか、ご存じだろうか?
今から200年程前に英国のラグビー校というパブリックスクールでサッカーの試合中、何を思ったのか、エリスという名の少年が突然サッカーボールを抱えてそのままゴールに突進していったのがラグビーの発祥と言われている。たまたまのハプニングだったのかも知れないが、ラグビーというスポーツを新しく創ったのである。凄いことだと思う。
ラグビーで思い浮かぶ言葉は「ルーティーン」、「楕円」、そして「トライ」。これらにからめて研究で意識していることを以下に記載させて頂く。
「ルーティーン (routine) 」: 前回のワールドカップで五郎丸選手がボールを蹴る前の仕草に見られた“ルーティーン”には安心感がある。この言葉はroute (道) やrupture (破裂、裂ける) と同じ語源をもつ。これらはいずれも、“to break”や“broken” (力によって裂くこと、あるいは、その状態) を意味するラテン語の“rumpere”や“ruptus”に由来する。引き裂かれて生じる刻み目は一つではなく、routeには、一本道ではなく、本来は幾つもの道の意味があったのではなかろうか。
「楕円 (ellipse) 」: サッカーとは違い、ラグビーのボールは楕円球である。ユニークな形状はどこにバウンドするか分からない思わぬ展開を生み出す。楕円の英語ellipseはラテン語ellipsis (欠損・不足) に由来する。真円でないが故の言葉であるが、どちらの形も美しく、(安定感のある) 真円が静的であるのに対し、楕円は動的である。微生物が真球に近い形をとっていたとしても増殖する際は楕円球になってから細胞分裂は起こる。欠けたところがある方が (逆に起点になりやすく) 伸びしろがあって良いではないか。何かやってくれそうな期待がある。
「トライ (try) 」: ラグビーのトライは初期の頃は得点にはならず、単に「コンバージョンキックに挑戦 (try) できる」権利に過ぎなかった。コンバージョンキックが一度でも決まれば勝利になる時代で、勝敗を決めるキックに挑戦する権利がトライによって得られたのであった。“try”はもともと“cull”、“screen, sifting”、“separate out (the good) by examination”の意味があり、我々の分野で言う「スクリーニング」に他ならない。
(新たなことへの「挑戦」は“チャレンジ”ではなく“トライ”)
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単なる一本調子で研究を進めるのではなく、また、同じようなことを日々繰り返し何気なく過ごすのではなく、何か面白いことや不思議なことはないか、他にも道があるのではないかと、考えてみませんか?
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何かハプニング的なことが起こったとしても、それを見過ごしたままにするのではなく、何故なのかを突き止めようとする気持ちをもちませんか? どんな方向に展開するのか、楽しみながら研究しませんか?
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ある事やある物が「欠けていた」としても、そう思っているだけであって、実際はそうではないかも知れない。例えば、新たな代謝 (酵素) やカスケード、応答機構が存在するかも知れない。目に見えてない「欠けている」と無意識に思っていることを改めて意識して探し、未知なることを解明してみませんか?
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改変よりも創出、ゼロをイチにする探索の研究をやってみませんか?
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アイデアを出し、新しいことに挑戦 (トライ) してみませんか?
皆さんの中から第2・第3のエリス少年が出ますように!
[追記: 本巻頭言を脱稿後、Brave Blossomsはプール戦最終戦で強豪スコットラ ンドをも下し全勝で決勝トーナメントに駒を進め、日本ラグビーの新しい扉を開いた!]