【会員企業におけるSDGsの取り組み】
SDGs の達成に向けた取り組みと研究開発の紹介
味の素梶@バイオ・ファイン研究所 野ア博之
1.はじめに
本特集に際して、改めて触れることは不要かもしれませんが、SDGsでは、社会・環境と経済の関係する17の“ゴール”の下、169の“ターゲット”が組まれ、その進捗状況を測る指標で構成されています1)。日本語訳では、「持続可能な開発目標」とされている場合が多く、特定の環境問題が想起させますが、改めて“ゴール”を見渡すと、貧困、飢餓、教育、平和にわたる地球上の生命活動全般に渡る内容で構成されています。各企業も自社事業やステークホルダーへの影響度を考慮し、経営課題として取り組んでいると認識しています。特に、グローバル企業と称される欧米企業は、経済活動を示す財務指標を示すのみならず、非財務指標を含んだ事業計画を示すことが主流となっています2)。また、社会的課題への取り組みと事業活動を連動させることによって、新規事業の機会創出へ繋げていく企業経営を目指す考え方が示されています3)。本稿では、酵素工学研究会の特別企画によせて、味の素株式会社の関連する活動、および研究開発などについて、紹介させていただきます。
2.当社取り組みの紹介
2-1 味の素グループの取り組み
当社は、1908年に「日本人の栄養状態を改善したい」と強く願っていた池田菊苗博士が発見した「うま味」を、1909年に「味の素」として製品化したことから事業活動が始まりました。創業以来一貫して、事業を通じた社会課題の解決に取り組み、社会・地域と共有する価値を創造することで、経済価値を向上し、成長につなげてきました。当グループでは、この取り組みを、ASV (Ajinomoto Group Shared Value) と称しています4)。世界中の人々のウエルネスを実現するために、マテリアリティ (企業の単中長期の価値創造能力に実質的な影響を及ぼす重要課題) を特定し、事業活動を展開しています。
具体的には、「製品の安全・安心の確保」をはじめとする11のマテリアリティ項目を設定し、主要な取り組みとの関連性を、すべてのステークホルダーに理解していただけるように、味の素グループ統合報告書5)に一覧表で示しています。例えば、「製品の安全・安心の確保」「健康・栄養課題への貢献」「生活者のライフスタイルの変化に対する迅速な提案」のマテリアリティ項目では、SDG2 (飢餓をゼロに)、SDG3 (すべての人に健康と福祉を)、SDG17 (パートナーシップで目標を達成しよう) との関連付けを示しています。特に、うま味の価値共有を目的としたWorld Umami Forum開催などの情報発信6)や、当社グループ製品の栄養基準の考え方の整備は、非常に重要な取り組みと位置づけています。
また、本報告書においては、財務 (経済価値) のデータと合わせて、非財務 (社会価値) のパフォーマンスデータ数値で示されています。具体的な例では、「温室効果ガスの削減」「再生可能なエネルギー利用比率」といった数値を、2030年の目標と直近5年間の推移をグラフ化しています。また、「当社グループ製品による共食の場への貢献回数」 (日本・Five Stars) といった社会貢献指標の数値化にも取り組んでいます。
2-2 研究開発
食品領域に端を発し、現在では、「コンシューマー食品」と「アミノサイエンス」の領域製造技術に関わる研究開発に取り組んでいます。特に、アミノ酸に関する研究領域を動物栄養、化成品、ライフサイエンスを含む幅広い事業領域に展開させてきた経緯があります。酵素工学の領域に関連する発酵技術、及び酵素を利用した生産技術の領域では、原料の調達、副産物削減、及び再利用を含む効率の向上、品質管理を徹底することにより、アミノ酸に代表されるバイオ素材を生産しています。アミノ酸の生産効率化には、生産菌株の研究成果による貢献が大きく、結果として、原料から目的物の生産効率を高めることにより、SDG12 (つくる責任つかう責任) の”ターゲット”に謳われている天然資源の持続可能な管理および効率的な利用に直結していると認識しています。また、上述の非財務 (社会価値) のパフォーマンスデータ中で、低資源利用発酵技術の工場導入率を項目として示し、2025年までに導入率100%を目指しています。
酵素工学に関連する昨今の研究事例では、食品フレーバー素材のバイオ製法開発も持続可能な原料を利用した製法に当てはまります。元来、フレーバー素材として利用される重要化合物は、植物からの抽出製法から産業化された事例が数多くありますが、その植物の確保が困難、あるいは気候条件に左右される場合には、バイオ製法は有効な手段になり得ます。当社でも、発酵生産物であるアミノ酸から酵素反応を利用して、目的のフレーバー化合物へ変換する技術開発事例があります7)。
3.おわりに
改めて、SDGsの“ターゲット”の文言を確認すると、環境問題に強い関心を抱きます。筆者が企業に属した1990年代の後半には、「石油がすぐに枯渇する」と言われ、社内には「環境問題を取り扱う研究題材は儲からない」という声を聴いたのを記憶しています。また、2000年代に入り、気候の変化を感じ始めたころ、「不都合な真実」という映画が公開され、地球温暖化や環境の変化を痛感しました。2010年代には、東日本大震災にかかるエネルギー問題を体感しながらも、容易に解決ができない課題ばかり山積され、2020年を迎えたように感じています。自責の念もこめて、SDGs達成への貢献に大切にしたいポイントを挙げたいと思います。一つ目は、「戦略再構築」:上述の通り、SDGsは環境課題に対するゴールのみならず、地球規模の課題に対して設定されています。着実に成果を創出している活動がある一方で、結実しなかった環境取り組みへの過去の反省も含め、改めて、戦略や考え方を継続的に見直す仕組みを作る必要を感じています。二つ目は「連携」です。単体で取り組むには限界があり、業界や国策といったレベルに及ぶかもしれませんが、課題の大きさを考えれば当然かもしれず、従来実現できなかった業種間の連携が必要とされます。最後は、いくつかの課題に対して不可欠となる「イノベーション」、と考えます。イノベーションの定義は、様々ですが、ここでは「経済的成功を伴う改革行為8) (東京工業大学 藤村修三先生の講義から引用) 」とすることが、適していると思います。企業の研究機関に在籍する身として、この実現を最重要視すべきと思えますが、上述の3つのポイントは文章に記してみると、いずれもSDGsのみならず日常の企業研究開発活動に重要な因子だと感じています。
酵素工学研究会は、産学のメンバーが参画しており、先端技術の交流を深め、質の高い教育の機会を築いてきた歴史があり、更に本件に貢献していくことが出来るものと期待しております。
文献
1) https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
2) 名和高司、CSV経営戦略 (2015).
3) モニター デロイト編、SDGsが問いかける経営の未来 (2018).
4) https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/
5) https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/
6) https://www.whyusemsg.com/
7) Takakura, Y., Danjo, K., Fukui, F., Asari, S., Ono, T., WO201712274A1 (2017).
8) 後藤 晃、イノベーションと日本経済 (2000).